直人の本棚
ちょっと不運なほうが生活は楽しい

ちょっと不運なほうが生活は楽しい

田中 卓志 新潮社 2026年2月28日

感想

話題の芸人が書いたエッセイということで、ついつい手に取ってしまった一冊だ。確かに「最高の食事」という母への思いを綴った章は、心を掴まれる瞬間もある。しかし全体的には、芸人としてのキャラクターありきの内容になってしまっている印象は拭えない。 何より感じるのは、エッセイというジャンルの奥行きの浅さだ。同じ芸人でも、筆の力で読者を唸らせる書き手は確かに存在する。しかし本書は、どうしても「テレビで見たあのキャラのままだな」という感覚を超えられない。人間的な深掘りや、人生経験から滲み出る洞察力が足りないのだろう。 仕事と人生のバランスについて考えさせられるくだりもあるにはあるが、それも既視感が強い。結婚や人間関係についても、特に新しい視点は提供していない。ベスト・エッセイに選出された話題性に釣られたのかもしれない。五十代ともなると、本を読む時間は限られている。その貴重な時間を割く値打ちがあったか、正直なところ疑問が残る一冊である。

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