石井の本棚
塀の中の美容室

塀の中の美容室

桜井美奈 双葉社 2018年9月13日

感想

仕事に追われて人間関係が二の次になっていく——そんな現代人の痛みが、最初の数ページで突き刺さってくる。主人公・志穂のメール文面「ゴメン。今日も仕事でダメになった」という表現の上手さだけで、この作者の観察眼の確かさが伝わります。 刑務所という一見遠い世界を舞台にしながら、実は私たちの日常の問題へ静かに向き合う作品です。各話の登場人物たちが美容室に来る理由、そこで何を思い、どう変わっていくのか。連作短編という形式が活きており、一つひとつの物語が独立しながらも、全体で大きなテーマへ収束していく構成が見事。 システムエンジニアとして論理的思考に慣れた身としては、人間の心理や感情の複雑さをこのように丁寧に掬い上げることの難しさを痛感します。決してお涙頂戴にならず、むしろ静謐な中に深い洞察がある。新書や人文書で得られるような知見が、小説という形で自然に心に染みてくる——そういう良質な読書体験でした。是非多くの人に読まれるべき作品だと思います。

ブクログからブクマへ
かんたん引っ越し

読書記録や感想をそのまま移行。
数分の準備で、ブクログの本棚をブクマへ。

詳しく見る
ブクログからブクマへの引っ越しイメージ