三浦の本棚
未だ本能寺にあり

未だ本能寺にあり

今村 翔吾 幻冬舎 2026年9月29日

感想

本能寺の変という歴史上の謎に、ここまで正面から向き合った小説は珍しい。織田信長の遺骨はなぜ見つからなかったのか──この単純にして根源的な問いが、8人の証言を通じて徐々に立体化していく仕組みが見事だ。 各証言者の視点は明確に異なり、それぞれが信じる「真実」は一見矛盾している。しかし読み進めるうちに、その矛盾こそが歴史の本質なのだと気付かされる。慎重派の私としては、一つの答えに急ぎすぎず、複数の可能性を丁寧に提示する著者の手法が信頼できた。 秀吉の野心、明智の内心、従者たちの小さな真実──こうした人間ドラマが歴史という大きな物語に組み込まれるとき、400年前の事件は単なる歴史ではなく、血肉を持った人間たちの選択の積み重ねとして蘇る。 エッセイのような読みやすさを保ちながらも、推理小説としての緻密さを失わない。週末にじっくり読むには最適な一冊だ。

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