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この世の喜びよ

この世の喜びよ

井戸川 射子 講談社 2022年11月10日

感想

第168回芥川賞受賞作ということで、発表されてからずっと気になっていた一冊。実際に手にしてみると、期待通りの上質な読み応えでした。 表題作「この世の喜びよ」は、ショッピングセンターという日常の風景を舞台にしながら、人間の内面に静かに迫る力強さがあります。特に印象的なのは、登場人物たちが言葉にならない感情をどう抱えているかという部分。自分たちの日常もこうした無意識の層で成り立っているんだと改めて気づかされました。 収録されている「マイホーム」「キャンプ」も同様に、一見地味な日常のシーンから、思い出と現在が交錯するときの微妙な感情の変化を丁寧に描き出しています。派手な展開や劇的な起伏はありませんが、その分、読後に心に残る余韻が強い。 著者の前作『ここはとても速い川』も評価が高かったようですが、この第二小説集でも確かに新しい才能の片鱗が感じられます。仕事の合間の読書で、こうした静かで深い作品に出会えるのは、読書の醍醐味ですね。話題作として文句なくお勧めできる一冊です。

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