静かな読書の本棚
カフェーの帰り道

カフェーの帰り道

嶋津 輝 東京創元社 2025年11月12日

感想

直木賞受賞作ということで手に取ってみたが、これが思いの外、良い作品だった。大正から昭和へと時代が移ろうなか、上野のカフェーで働く女性たちの人生を描いた作品である。 何が素晴らしいかといえば、歴史の教科書には決して載らない、市井の女性たちの生き方がこんなに愛おしく、そして力強く描かれていることだ。「女給」という職業を通じて、当時の社会、時代の空気まで伝わってくる。タイ子、セイ、美登里、園子——それぞれ異なる背景を持つ彼女たちが、互いに支え合い、時には突っかかりながらも、懸命に日々を重ねていく。その様子が自然で、ありありと目に浮かぶ。 自営業をして五十年近く、いろいろな人間関係を見てきた身からすると、この作品の人物描写は本当に見事だと感じる。誰もが何らかの葛藤や悩みを抱えながら、それでも前に進もうとしている。その健気さが胸に響く。 百年前の物語とはいえ、決して遠い昨日の話ではなく、今を生きる私たちにも通じるものがある。気軽に読める作風ながら、深い思考を促す——そういう読書の喜びを味わわせてくれた一冊だ。

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