夜読み派の本棚
富士日記(中)

富士日記(中)

武田 百合子 中央公論新社 2019年6月20日

感想

話題の作品ということで手に取ってみた富士日記の中巻ですが、正直なところ期待値と現実のギャップを感じてしまいました。 泰淳の妻として富士山荘で過ごした日々を記録したという設定は興味深いのですが、日記という形式ゆえに物語性に欠けるというか…。愛犬の死や花火の場面など、心に残るエピソードはあるものの、全体としてはかなり私的で内向的な内容が多く、ページをめくる推進力がどうしても弱い。 あと三巻構成というのが微妙に引っかかります。中巻だけで完結していないせいか、話題性で選んだわりには中途半端な読了感が残ってしまった感じ。もちろん文章としての質は高いし、昭和時代の知識人夫妻の生活模様という歴史的な価値は理解できます。でもエッセイ好きの自分としては、もう少しメッセージ性や著者の思考が前に出た作品の方が、個人的には刺さるのかもしれません。 田村俊子賞受賞作という肩書に惑わされず、自分の好みをちゃんと見つめ直すきっかけになった一冊ではあります。