洋子の本棚
ゆっくり急げ

ゆっくり急げ

ヤマザキマリ 中央公論新社 2026年9月7日

感想

ヤマザキマリさんの著作は以前から注目していたので、今回のエッセイ集も期待を込めて手にしました。人生経験豊かな著者が語る、イタリアでの暮らしや家族とのエピソードは、確かに興味深い内容も多くあります。 ただ、正直なところ、全体を通じて物足りなさが残ってしまいました。66篇というボリュームの中に、深く掘り下げられた思考の軌跡というよりも、日常の出来事をそのまま切り取ったような印象を受けます。「人生は思い通りにならないことで溢れている。だから面白い」というコピーは魅力的ですが、その「面白さ」がどこから生まれるのか、著者がどう向き合ってきたのか、という部分が十分に伝わってこないのです。 エッセイという形式だからこそ、短編でも一つの問題に対する著者独自の思想的深さが光るべきだと思うのですが、この本からはそうした思索の痕跡が乏しいように感じられました。人文書の読者として期待していた「ああ、なるほど」という知的な発見や新たな視点が、残念ながら得られませんでした。著者の多才さを感じさせるまとまりではありますが、エッセイ集としての完成度という点では、もう一段階の深掘りが必要だったのではないかと思います。

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