直人の本棚
感想

直木賞受賞作ということで手に取った『心淋し川』だが、期待以上の傑作だった。江戸の裏長屋を舞台に、人生の袋小路に嵌まった人々の営みを描いた短編集だ。 什麼といっても印象的なのは、著者が「人間の淀み」をこれほど丁寧に、そして温かく描いているという点である。妾、飯屋の主人、武家の中間など、社会的に周縁化された人物たちが、それでも懸命に、時に諦めながら、人生と向き合う。その姿が実に生き生きとしている。 各篇とも短いながら、登場人物の内面が深く掘り下げられており、読み終わった後に心に余韻が残る。長年様々な本を読んできたが、こうした「小さな人間ドラマ」の書き方は本当に難しい。それを見事に成し遂げている。 五十代も後半に入った身としては、人生の中盤から後半にさしかかった人間たちの葛藤が、他人事とは思えなかった。むしろ、そういう年代だからこそ、この作品の深みが理解できるのかもしれない。文庫化されたこの機会に、是非多くの人に読んでもらいたい一冊だ。

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