取調室のハシビロコウ

取調室のハシビロコウ

江口大和

出版社:時事通信出版局 出版年月日:2026/01/07

時事通信出版局 | 2026/01/07

4.00
本棚登録:5人

みんなの感想

実話に基づいた本書は、刑事司法制度の根幹に関わる重大な問題を浮き彫りにしています。弁護士という社会的地位を持つ人物が、事実無根の疑いで逮捕され、250日間の勾留という極限の状況に置かれるという設定だけで、既に読者の想像力は掻き立てられます。 著者が詳細に記した取調室での経験は、単なるサスペンス的興味を超えて、司法制度における被疑者の人権、検事の取調べ手法の妥当性といった根本的な問いを投げかけています。論理的にこれらの問題を追究しながらも、一個人の尊厳をかけた闘いという人間らしさが失われていない点が秀逸です。 人文・思想書の読み手として、制度批評という側面と、個人の葛藤を描くエッセイ的側面が融合した本書の構成は、大変バランスが取れていると感じました。社会人として日々の業務に従事する中で、私たちが当然と思い込んでいる「司法」という機構について、改めて思考を深める契機となる良著だと思います。

実話に基づいた重大な事件を扱っているだけに、より深い思考の余地を期待していただけに、その点で少し物足りなさを感じました。 江口さんが取調べで受けた人権侵害の実態を描くこと自体は重要です。しかし本書は事実の羅列に終始してしまい、この事件が日本の司法制度や尋問慣行に何を問いかけているのか、読者に考えさせるための視点や構成がもう一段階深まっていないように感じます。 人文系の読者として期待するのは、単なるノンフィクションの臨場感ではなく、制度的な問題への根本的な問い直しです。弁護士という専門職にあった著者だからこそ、法的観点からのより厳密な分析や、構造的な批評があってもよかったのではないでしょうか。 もちろん、このような不当な扱いを受けたことを世に知らせること自体の価値は認めます。ただ、より洗練された論述と、読者の思考を促す構成があれば、より説得力のある一冊になったと思います。啓発的な意図は伝わってきますが、その伝え方に工夫の余地があるというのが正直な感想です。

衝撃を受けました。タイトルの「ハシビロコウ」という不思議な言葉に惹かれて手に取ったのですが、こんなに深い実話だとは。 弁護士という社会的地位がある人が、理不尽な取調べにどう向き合うのか。その過程がとても丁寧に描かれていて、ページをめくる手が止まりませんでした。特に、検事による人格否定的な取調べの詳細が出てくる場面は本当に息が詰まります。中学時代の成績表を持ち出して揶揄するって...こんなことが日本の司法の現場で起きているのか、と驚きました。 エンジニアとして論理的に物事を考える癖がある私だからこそ、この本の主張がものすごく響いたんだと思います。事実と証拠に基づかない取調べの矛盾が、淡々と記述されていく様が、むしろ検察側の異常さを際立たせていて、非常に説得力がありました。 家族への思いも含めて、尊厳を守ろうとする姿勢に感動しました。「普通の人」がこういう状況に置かれたら、という恐怖と、それでも闘い続けた勇気が伝わってくる。気軽に読める本ではないけれど、本当に読んでよかった一冊です。