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取調室のハシビロコウ

取調室のハシビロコウ

江口大和 時事通信出版局 2026年1月7日

実話に基づいた重大な事件を扱っているだけに、より深い思考の余地を期待していただけに、その点で少し物足りなさを感じました。 江口さんが取調べで受けた人権侵害の実態を描くこと自体は重要です。しかし本書は事実の羅列に終始してしまい、この事件が日本の司法制度や尋問慣行に何を問いかけているのか、読者に考えさせるための視点や構成がもう一段階深まっていないように感じます。 人文系の読者として期待するのは、単なるノンフィクションの臨場感ではなく、制度的な問題への根本的な問い直しです。弁護士という専門職にあった著者だからこそ、法的観点からのより厳密な分析や、構造的な批評があってもよかったのではないでしょうか。 もちろん、このような不当な扱いを受けたことを世に知らせること自体の価値は認めます。ただ、より洗練された論述と、読者の思考を促す構成があれば、より説得力のある一冊になったと思います。啓発的な意図は伝わってきますが、その伝え方に工夫の余地があるというのが正直な感想です。