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ウエハースの椅子

ウエハースの椅子

江國香織 角川春樹事務所 2004年5月1日

感想

著者の不倫関係を題材にした作品だということで、文学的な深さを期待して手に取りました。確かに、三十八歳の画家が既婚の恋人との関係に揺れる心理描写は繊細で、言葉選びに洗練さを感じさせます。特に体と心の親密さを描く表現には、著者の観察眼の鋭さが窺えます。 ただ、読み進めるにつれ、物語としての大きな動きや思想的な深掘りが足りないように感じました。恋愛の切実さは伝わってくるのですが、それが人生全体の中でどのような意味を持つのか、あるいは社会的な問題提起へと昇華するのかという展開が乏しい。自営業を営む身として、人生経験の重みを求めてしまう癖があるのかもしれませんが、もう一歩踏み込んだ洞察があれば、より充実した読書体験になったと思います。 文庫本としてのコンパクトさと読みやすさは及第点。完璧とも完全な失敗とも言えない、そういった作品です。

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