八十になった今、こういった心温まる物語に出会えるのは本当に幸せなことだ。猫を通じた人間ドラマというのは、さすが話題の作品だけあって、よく考えられている。 川越の古い木造アパート「浪漫荘」という舞台設定が実に良い。私も若い頃、同じような下町に住んでいたころを思い出させてくれた。主人公の門脇暖が祖母の思い出を守りながら、新しい住人たちとの関係を築いていく過程が丁寧に描かれている。そしてそれを見守る猫「ちっちゃいのすけ」のキャラクターが絶妙だ。 特に印象的だったのは、登場人物たちの人生経験が深く反映されているところだ。自営業を長くやってきた身として、八木澤豊治さんのような熟年の悩みは他人事ではない。人生後半戦における新しい関係や絆の作り方について、この作品は静かに、しかし力強く語りかけてくるように感じた。 文庫本というのも手に取りやすく、夜の読書に最適だ。人生経験を積んだ世代にこそ、読んでほしい一冊である。