読書メモの本棚
博士の愛した数式

博士の愛した数式

小川 洋子 新潮社 2003年8月29日

人生八十年も生きていると、本との出会いも限られてくると思っていたが、この作品には驚かされた。記憶を失った数学者と家政婦、そして彼の息子という三人の関係を通じて、これほど深い人間の絆を描いた作品は珍しい。 若い頃は数学など縁遠い話だと思っていたが、この本では難しい理論ではなく、数式が愛情や人生の真理を語りかけてくる。博士がタイガースの話題で息子と心を通わせるシーンなど、自営業で人間関係を大切にしてきた身としては、つい自分の経験と重ね合わせてしまった。 何度も読み返したくなる作品だ。世界は確かに驚きと歓びに満ちている。この年になって、そんなことを教えてくれるなんて。話題になったのも納得できる傑作である。自営業の仕事の傍らで疲れた心が癒される。孫にも勧めたいほどだ。