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感想

新潮文庫の新刊コーナーで目に留まった一冊。連続殺人鬼の妻たちという、確かに斬新な視点から事件を描いているというので手に取ってみました。 結論から言えば、着想は悪くない。連続殺人鬼という既に飽和した題材に、その妻という周縁的存在を据えることで、新たな物語の可能性を見出そうとした試みは評価に値します。心理サスペンスとしての構造もしっかりしており、ページをめくる手が止まりません。 ただし、仕上がりという点では物足りなさが残る。登場人物たちの内面描写が表層的で、特に妻たちの心理に深さが不足しているように感じました。殺人鬼との関係性を掘り下げれば、もっと複雑で人間的な葛藤が浮かび上がったはずです。またストーリーも中盤から後半にかけてやや散漫になり、説得力が減じる箇所がありました。 イヤミスというジャンルの需要は承知していますが、単に不快感を与えるだけでは文学として弱い。もう一段階、登場人物への入り込みや世界観の構築に時間をかけてほしかった。悪い本ではありませんが、傑作までの道のりはまだある、というのが率直な感想です。