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国宝 下 花道篇

国宝 下 花道篇

吉田修一 朝日新聞出版 2021年9月7日

下巻を読み終わって、しばらく言葉が出ませんでした。 上巻から続く立花喜久雄の人生の軌跡。任侠の世界に生まれながら、舞台という異なる世界へ導かれていく男の葛藤と執念が、これほどまでに深く胸に響くとは思いませんでした。著者の描く昭和の時代背景、登場人物たちの複雑な人間関係、そして何より芸術に命を賭ける男たちの姿勢——すべてが緻密に編み込まれています。 慎重に本を選ぶ私ですが、この作品については心から読んでよかったと感じます。『悪人』や『怒り』同様、著者の真骨頂とも言える傑作です。長編だからこそ描ける人物の成長、時代との相互作用、そして人生という舞台での美学。会社員として日々を過ごす私にとって、これほど「何かに没頭する」ことの尊さが伝わってくる物語はありません。 若干、中盤の登場人物の多さに戸惑うところもありましたが、それを差し引いても傑出した作品。上下巻、時間をかけてでも読む価値は十分にあります。