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邂逅の森

邂逅の森

熊谷 達也 文藝春秋 2006年12月6日

直木賞と山本周五郎賞のダブル受賞という触れ込みに惹かれて手に取りました。39歳になって、人生の選択肢の重さをより理解するようになったせいか、この作品の深さが心に響きました。 秋田の貧しい小作農に生まれた主人公・富治の人生は、一つの選択によって大きく揺さぶられます。マタギとしての山への思い、身分制度による制約、そして愛する者との関係。どれも譲れない想いなのに、すべてを手に入れることはできない。その葛藤の描き方が本当に丁寧です。 著者は消えていく日本の風土—マタギという伝統的な生業、秋田の山々、そして失われつつある生き方—を克明に記録しています。その中で人間ドラマが紡がれる構成が素晴らしい。時代背景についても私たちが教科書で習う日本の変遷が、一人の男の人生を通してこんなにも生々しく伝わってくるのかと驚きました。 文庫本で読みやすいのも嬉しいポイント。仕事で疲れた日も、富治の人生に引き込まれて一気読みしてしまいました。感動巨編というのは伊達ではありません。迷っている方には自信を持ってお勧めできる一冊です。