上下巻を一気読みしてしまいました。いやあ、この作品は本当に面白い。人間の心の奥底にある「殺意」というものをこんなに丁寧に、しかもリアルに描いた小説は久しぶりです。 田島という主人公に次々と降りかかる困難と、倉持という不可思議な人物との関係性。二人の間に何度も生まれては消える感情の揺らぎが、この物語全体を貫いています。仕事の不正、人間関係の複雑さ、自分の人生を左右する選択肢——こういった普通の人生でも直面しうるテーマが、ページをめくる手を止められなくさせるんです。 特に後半は、本当に目が離せませんでした。「殺す」という極限の感情が、ただ暴力的なものではなく、むしろ人間らしい葛藤として描かれているところが素晴らしい。結末まで含めて、著者が何を問い掛けたかったのかがじんわり伝わってきます。 嘱託社員として長く働いてきた自分だからこそ、この作品の深さが身に沁みるのかもしれません。気軽に読める文庫本でありながら、読み終わった後も心に残る、そんな傑作だと思います。