感想
日本推理作家協会賞受賞という帯の文字に惹かれて手に取った一冊です。連作短編集ということで、無理なく読み進められるだろうという期待もありました。 いやはや、期待以上でした。島という閉ざされた世界に生きる人々の複雑な感情が、丹念に、そしてさりげなく描かれています。各編を読むたびに、登場人物たちの心の揺らぎが自分の胸にも伝わってくる。選考委員の北村薫氏が「ほとんど名人の技」と評された言葉がよく分かります。 特に印象的だったのは、筋立てに説得力があること。奇をてらった展開ではなく、人間らしい葛藤の中から自然と物語が立ち上がってくる。魚料理や島の風景といった細部の描写も、単なる背景ではなく、物語の重みを支える大切な要素になっています。 正直なところ、推理小説というジャンルに最初は少し身構えていたのですが、これは心の謎を解く物語なのだと気づきました。人間関係の複雑さ、故郷への複雑な思い――そうしたテーマに真摯に向き合った傑作だと思います。同年代の方にも、ぜひ手に取ってほしい一冊です。