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キネマの神様

キネマの神様

原田 マハ 文藝春秋 2011年5月10日

仕事も人生も停滞していた主人公が、映画という媒介を通じて家族との関係を修復していく過程が素晴らしい。山田洋次監督らしい温かみのある視点で、決して派手ではない日常の変化を丁寧に描いている点が心を掴まれた。 特に印象的だったのは、映画への向き合い方だ。エンジニアとしてロジカルに物事を考える癖がある自分だからこそ、映画を通じて別の価値観に触れることの大切さが身に沁みた。親子が同じ作品について語り合う場面は、単なる感動話に留まらず、コミュニケーションの本質について考えさせられた。 文体も読みやすく、映画愛に満ちた描写は映画好きでない読者にも十分魅力的だ。借金や失業といった重いテーマを扱っているにもかかわらず、決して沈鬱にならず希望を感じさせるバランス感覚が秀逸。人生に迷いを感じている人、家族関係に課題を抱えている人にこそ読んでほしい作品だ。