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うぽっぽ同心十手裁き 迷い蝶

うぽっぽ同心十手裁き 迷い蝶

坂岡真 中央公論新社 2026年1月22日

「十手裁き」シリーズの最終巻ということで、かなり慎重に読み始めたのですが、正解でした。長尾勘兵衛という主人公の抱える過去の重さと、現在の事件がこんなにも緻密に絡み合うとは思いませんでした。 水茶屋の看板娘失踪という表面的には単純な事件が、実は複数の因縁が交錯する深刻な事態へと発展していく過程が見事です。特に勘兵衛が妻の失踪事件と重ね合わせる場面では、キャラクターの内面的な揺らぎがしっかりと伝わってきました。 時代小説として充分な娯楽性を保ちながら、人物の心理描写に注力している点がこの作品の強みだと感じます。エンジニアの仕事柄、ロジカルな展開を求める傾向がありますが、この作品はプロット的にも登場人物の動機付けについても隙がなく、最後まで引き込まれました。 シリーズの完結巻として、主人公の長年の懸案にどのような決着がつくのかという期待値も高かったのですが、期待以上の納得感を得られました。時代小説ファンはもちろん、人物描写に定評がある作品を探している方にもお勧めできます。