はるとの本棚
方舟

方舟

夕木 春央 講談社 2022年9月8日

『方舟』を読み終わりました。正直なところ、期待と現実のギャップが少しあったというのが素直な感想です。 プロット自体は魅力的です。密室、タイムリミット、犯人探し、そしてその犯人を「生贄」として差し出すという極限の状況設定。週刊文春とMRC大賞での受賞も納得の面白さはあります。ただ、エンジニア的に言うなら、各要素のクオリティのばらつきが気になってしまいました。 登場人物たちの心理描写は丁寧で、追い詰められた状況下での人間関係の変化は読み応えがあります。一方で、ミステリーとしてのカタルシスという点では、若干の物足りなさを感じました。犯人の正体に至るまでのプロセスが、読者に与えられる情報量とのバランスが難しく、最後のページを開いても「なるほど」という確実な納得感よりも「そう来たか」というやや曖昧な印象に終わってしまいました。 エッセイ的な深掘りと冒険小説としてのスリルが混在していて、どちらに振り切るべき作品なのか判断が難しい部分も。とはいえ、このテーマに興味がある方であれば、一読の価値はあると思います。