感想
嶽本野ばらの『それいぬ』の愛蔵版を手に取った時、正直なところ戸惑いを感じた。90年代の乙女の聖典と聞かされていたので、時代的な距離感をどう埋めるか懸念していたのだ。だが読み進むうちに、その懸念は見事に払拭された。 本書に満たされているのは、一貫した「優しさの哲学」である。著者の言葉たちは韜晦に満ちながらも、読み手を決して傷つけない。むしろ包むように、支えるように語りかけてくる。教室で生徒たちの揺らぐ心と向き合う自分の職業経験を通じて見ると、ここに記された繊細な心理描写はまさに処方箋に思える。 四半世紀前の作品とは思えない普遍性があり、掲載されたエッセイや短編の数々は今読んでも色褪せていない。むしろ、スマートフォンに疲弊した現代だからこそ、この手紙のような優雅な語りが胸に沁みる。愛蔵版として仕上げられた装丁も秀逸で、書架に置いておきたくなる一冊だ。 大人になった今だからこそ味わえる深さと魅力がある。