雄一の本棚
まるまるの毬

まるまるの毬

西條 奈加 講談社 2017年6月15日

時代小説をこよなく愛する身としては、こういった作品に出会えるのは本当にありがたい。『まるまるの毬』は、江戸の菓子屋を舞台にした連作短編集なのだが、各編の人物描写が実に丁寧で温かい。 武家の身分を捨てて職人になった治兵衛、出戻り娘のお永、そして看板娘のお君——彼らが営む「南星屋」という空間に流れる時間が、読んでいて心地よい。菓子という日常的な商いを通じて、人間関係の機微や人生の複雑さが自然に浮かび上がってくる構成の巧さに感心させられた。 何より素晴らしいのは、登場人物たちの秘密や悩みが押しつけがましくなく語られることだ。自営業の身として、人間関係と生業の両立の難しさについ共感してしまう箇所も多かった。吉川英治文学新人賞受賞という帯文に納得がいく完成度である。 気軽に、しかし確かな手ごたえを感じながら読める。仕事帰りに少しずつ進めるのに最適な一冊だと思う。