渡辺淳一文学賞受賞作ということで手に取ったが、期待以上の傑作だった。 調香師という独特の職業設定が秀逸で、「香り」を通じて人間の深層心理に迫る手法は新鮮だ。主人公・一香が古い洋館で出会う調香師・朔との関係性が少しずつ織り交ぜられていくプロット構成も見事。依頼人たちが抱える秘密や想いが香りという形で表現されることで、文章を読むだけでも五感が刺激されるような感覚を覚えた。 人間関係が多忙な中年サラリーマンの身としては、朔のキャラクター描写に特に共感させられた。天才的な才能を持ちながらも「孤独」と向き合う様子は、仕事の環境では見えない深い感情の世界を表現しており、そこに千早茜の筆力の高さが感じられる。 文学賞受賞作だからと身構えずに読めるドラマティックな長編で、最後まで一気読みしてしまった。この手の話題性の高い文学作品は最近のトレンドだが、この作品はその期待を十分に超える仕上がり。ぜひ多くの読者に読んでほしい一冊だ。