最近、話題になっていた『望郷』をようやく読み終わりました。日本推理作家協会賞受賞作ということで期待していましたが、予想以上の完成度でした。 島という閉ざされた世界を舞台に、そこから逃げ出した人間たちの複雑な心情を六つの連作短編で描いています。それぞれの物語が独立しながらも、島という存在が底流で人々を繋いでいるその構成の巧みさに感心させられました。 北村薫さんが「名人の技」と評した通り、推理小説としての意外性やトリックよりも、人間関係の機微や郷愁といった普遍的なテーマを、いかに効果的に表現するかに力を注いでいる。魚料理などの細部描写も含めて、本当に隙がない。 この年代になると、どこかで「故郷」という言葉に反応してしまいます。島を愛しながらも恨み、離れても心がひきずられてしまう──その矛盾した感情が、これほどまで鮮やかに描かれた作品は珍しい。著者自身が島で生きてきたからこその説得力があるんでしょう。 人文書や思想書も好きですが、こういう質の高い短編集に出会えるのは本当に幸福です。