雄一の本棚
感想

加賀恭一郎シリーズは以前から気になっていたのだが、このたび『赤い指』を手に取ってみた。結論から言うと、大変な秀作である。 少女の遺体発見という重々しいテーマから始まるこの作品は、一見すると単なるミステリーかと思わせるが、実は家族という単位そのものへの根本的な問い掛けになっている。加賀恭一郎という刑事を通じて、著者が「平凡な家族など存在しない」というテーマを丹念に掘り下げていく過程は、読んでいて息もつかせぬほどだ。 特に感心したのは、複数の視点を効果的に用いながら、登場人物たちの心理描写に深みを与えている点である。各人物が抱える秘密や葛藤が、幾重にも折り重なっていく構造は見事としか言いようがない。謎解きの部分も説得力があり、単なるトリックものに陥らない作品の格調の高さが伝わってくる。 54歳の人生経験を積んだ身として、親子間や夫婦間の関係性が問い直される部分に、強く共感できた。この作品は、ミステリーの枠を超えた人間ドラマであり、家族を持つ者なら必読の価値がある。直木賞受賞後の第一作として申し分ない充実ぶりである。