感想
脳移植という医学的なテーマを、ここまでドラマティックに描いた作品は珍しい。手術後、主人公の人格が徐々に変わっていく様を追うこの物語は、単なるSFではなく、「自分とは何か」という根源的な問いを突きつけてくる。 管理職の立場にある私としては、人間関係や仕事での判断基準となる「性格」や「気質」がいかに脆弱なものであるかを改めて認識させられた。もしも自分の脳が別人のものになったら、それでも自分は自分なのか。そうした哲学的な深みがありながらも、話の運び方は実に上手く、ページをめくる手が止まらない。 設定は奇抜だが、登場人物たちの心情表現は丁寧で説得力がある。純一の恋人の葛藤、彼が真実に近づいていく過程、そしてドナーの正体が明かされるにいたるまで、緊張感を保ったまま読み進められた。気軽に楽しむ読書の時間として、また人間の本質を考えるきっかけとして、両面で満足できる一冊だ。