感想
平野啓一郎のこの新作は、なかなかに骨のある作品ですね。弁護士の城戸が依頼者の里枝から聞かされる「ある男」の話。夫だと思っていた人が、実は全くの別人だったというんですから、もう驚きですよ。 なんといっても心をつかまれるのは、人間関係の根底にある信頼がいかに脆いものかということ。二度目の結婚で幸せを感じていた矢先の大事件ですから、里枝の衝撃たるや、想像を絶します。著者は巧みに謎を解き明かしていくのですが、単なるミステリではなく、人はなぜ人を愛するのか、という根本的な問いかけになっているところが素晴らしい。 75年も生きていると、人間のいろいろな側面を見てきたつもりですが、この本はそれでも新しい角度からの問いを投げかけてくれます。決して重くなり過ぎず、読み易いのも嬉しいところ。平野啓一郎、やはり只者ではない作家だと改めて思いましたね。