感想
直木賞受賞作ということで、話題になった時から気になっていた一冊だ。短編集とのことだったので、通勤時間に少しずつ読み進められるのではと手に取ってみた。 期待通り、どの作品も野球という題材を通じて人生の切実な瞬間をすくい取っている。老監督が後輩に告げられる引退、息子の成長を見つめる母の複雑な思いー—こうした日常の中の、言葉に出来ない感情が静かに立ち上がってくる。伊集院さんの筆致は本当に繊細だ。 特に印象的だったのは、各編が「野球」という共通項を持ちながらも、登場人物ごとにまったく異なる人生ドラマを展開しているところ。スポーツを題材にしながらも、決してスポーツ小説に留まらない、人間関係や世代間の葛藤が丁寧に描かれている。 会社員生活も41年目に入る身として、人生の移ろいや諦観といったテーマにも共感を覚えた。読み終わった後、しばらくその余韻に浸れる良質な短編集だと思う。多くの人に読んでもらいたい作品だ。