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木挽町のあだ討ち

木挽町のあだ討ち

永井 紗耶子 新潮社 2025年9月27日

話題の直木賞受賞作ということで手に取った一冊ですが、期待以上の仕上がりでした。 江戸の木挽町を舞台にした仇討ちの物語なのですが、単なる時代小説の枠には収まらない奥行きがある。冒頭で大きな事件が起こるのに、その後は関係者たちへの取材という形で物語が進んでいく構成が巧妙です。芝居小屋の周辺に生きる人間たち──幇間、立師、衣装部屋の女形。社会の片隅で生きる彼らが、あの夜の事件に関わっていたというのが面白い。 特に印象的だったのは、「立派な仇討」と世間で語られている出来事の背後にある、もっと人間らしい真実が明かされるくだり。正義や大義というものの相対性を、押し付けがましくなく自然に浮かび上がらせる手法に、著者の力量を感じました。 江戸情緒の描写も丁寧で、読んでいて当時の町の息遣いが感じられる。ちょっと疲れた41歳の会社員にとって、こうした世界観に浸るのは良い息抜きになりました。直木賞作品というお墨付きもありますが、それに甘えず、しっかり読む価値のある一冊だと思います。