文子の本棚
感想

この本、ほんとうに面白かったですよ。戦後の事件を追いかけるというミステリーのようなありながら、主人公の海老原が息子を一人で育てている様子も丁寧に描かれていて、人間らしさが感じられます。 古い事件の真相を求めて取材を進める海老原が、だんだんと事件に引き込まれていく過程がね、つかまれてしまいました。北川フサという殺人鬼がどういう人物だったのか、その周辺の人間関係、当時の時代背景……いろいろなことが絡み合っていく感じがしています。 特に良かったのは、派手さはないけれど、きちんと書き込まれた登場人物たちです。誰もが何か複雑な背景を持っていて、単純には割り切れない。そういう人間臭さが、この年になると読んでいてしみじみときます。 ページをめくる手が止まりませんでした。難しい本ではないけれど、読み応えがあって、読み終わった後もしばらく考えさせられます。朝日新聞出版らしい、良質な小説だと思いますね。