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黒蜥蜴 江戸川乱歩ベストセレクション(5)

黒蜥蜴 江戸川乱歩ベストセレクション(5)

江戸川 乱歩 KADOKAWA 2009年1月24日

江戸川乱歩の代表作を改めて読み直しました。「黒蜥蜴」は、確かに時代小説の枠を超えた傑作だと感じます。 社交界と暗黒街を股にかける女賊と、名探偵明智小五郎。この二人の緊迫した対峙が、やがて微妙な感情へと変わっていく過程が秀逸です。単なる犯罪ミステリーではなく、人間関係の複雑さ、相手への理解と共感が生まれる瞬間を丁寧に描いている。管理職として人間関係を見つめてきた身としては、その心理描写の細やかさに深く共感できました。 文庫版のこのシリーズ構成も良く、手に取りやすい。古い作品ながら、登場人物たちの葛藤や美学は今読んでも色褪せていません。むしろ、現代の下品なキャラクター造型では決して出せない、知的で危険で儚い女性像に魅了されます。 乱歩の多くの作品を知る者にとって、この作品の位置づけがより鮮明に見えてくるようです。短編ながら完成度が高く、何度でも立ち返りたくなる一篇です。