五木寛之の『大河の一滴』を読み終わった。58歳という人生の後半戦に差し掛かった身にとって、この本は実に深い説得力を持っていた。 「マイナス思考から出発する」という冒頭の主張に最初は驚いたが、読み進むにつれてその意味が腑に落ちた。ブッダも親鸞も、そして著者自身も、人生の苦しみや絶望を直視することから始めたという視点は、これまで読んできた自己啓発本とは一線を画している。ポジティブシンキング一辺倒の時代だからこそ、こうした本質的な問い方が求められているのだろう。 仕事を続けながら、様々な人間関係の葛藤を経験してきた僕にとって、「地獄は今ここにある」という表現は身につまされた。同時に、その覚悟が定まったときに本当の希望が訪れるという著者の言葉には、妙な説得力と勇気づけられる力がある。 『歎異抄』という古典と現代人の心理を結ぶ試みも秀逸だ。話題作として評判だった理由も理解できる。人生観を問い直したい同年代の方には特にお勧めしたい一冊だ。