最近は気軽に読める文庫本が増えていて、この作品もそのひとつです。江戸時代の深川を舞台にした人情時代小説ですが、口が利けない筆耕師が文字を通じて人々の想いに寄り添うというコンセプトが素晴らしい。 物語の構成が巧妙で、各章で異なるお客さんの悩みや願いが描かれるんですが、どれも読んでいて心が温かくなります。迷子の子どもを探す親御さんの切実な思い、遺された言葉の重さ…そういった人間の本質的なドラマが、さらりと書かれているのが良いですね。 主人公の数馬が口が利けないというハンディキャップを持ちながらも、筆を通じて人々と繋がっていく様子は、自営業をやってきた身としても勇気づけられました。姪の春佳との関係性も微笑ましい。 文体も読みやすく、自営業で忙しい日々の合間に少しずつ読んでも無理がありません。江戸の町並みが目に浮かぶような描写も秀逸です。時代小説初心者にもお勧めできる一冊だと思いますよ。