流れる島と海の怪物

流れる島と海の怪物

田中 慎弥

出版社:集英社 出版年月日:2023/06/26

集英社 | 2023/06/26

4.67
本棚登録:4人

みんなの感想

感想

話題作『共喰い』から10年、田中慎弥が再び下関を舞台に描いた新作。その存在を知った時点で、これは読むべきだと直感しました。 本書は謎めいた二人の姉妹との出会いから始まる、濃密な家族の物語です。主人公がなぜこの屋敷に連れてこられたのか、その理由が出生にまつわる秘密へと繋がっていく構成は秀逸。血と家族についての問い掛けが、神話的な世界観と重なり合い、ページを進めるごとに深い沼へと引き込まれていく感覚があります。 田中慎弥の文体は相変わらず冴えていて、一見穏やかな日常の描写の中に不穏さを潜ませる手法が実に巧妙。登場人物たちの心理描写も細密で、彼らが何を隠しているのか、どう絡み合っているのかを探りながら読み進めるのが醍醐味です。 少年と少女の関係性、そして家族という枠組みの中で何が起こるのか。最後まで目が離せませんでした。文学的な深さと物語性を兼ね備えた、見事な一冊です。同年代の読者にぜひお勧めしたい作品。

感想

江戸時代の実在の裁判事件を題材にした本作は、管理職として組織内の紛争処理に携わる身として、非常に興味深く読むことができました。 宝暦五年、美濃国郡上からやって来た一行が引き起こしたこの裁判劇は、単なる歴史冒険譚に留まりません。権力構造と個人の正義がぶつかる緊張感、隠密裏に進む調査、証人たちの証言――現代の組織内問題解決にも通じる普遍的な人間ドラマが展開します。 著者の筆致は明確で、複雑な事件構図を丁寧に紡いでいきます。登場人物たちの動機や葛藤も丹念に描かれており、単なる事実の羅列ではなく、歴史小説として深い味わいがあります。 一気読み必至という惹句に偽りなし。平日の夜間に読み始めたら、つい徹夜してしまいました。最近は話題作をチェックすることが習慣でしたが、本作はその期待値を十分に上回る傑作だと感じます。人文知識を深めたい方、組織における権力と正義の問題に関心のある方に、心からお勧めできる一冊です。

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